Column税務コラム

適格請求書等保存方式の導入とその影響についての考察

皆様もご存じの通り、2019年10月1日から消費税率が8%から10%へ引き上げられ、同時に軽減税率制度が実施されました。テレビやコマーシャルでのメディアアナウンスが積極的になされたこともあって、苦労はされているものの予定通りの実務移行が進められているかと思います。

今回お伝えしたいのは、今までメディアが報じてきた、何が8%で何が10%等の細かい話ではなく、今後導入が予定されているインボイス制度(適格請求書等保存方式)とその影響についてです。

 

消費税のしくみ

インボイス制度を語るうえでまず理解しておかなければならないことは、誰が消費税を負担して、誰が消費税を国に申告・納税しているのか、ということです。消費税は、商品やサービスを消費した消費者が負担し、納税義務者である事業者が国へ納税しています。これだけではわかりにくいので、以下に簡単な例を示します。

個人Aが木材から椅子をつくり、家具量販店Bに税込11,000円(消費税1,000円)で販売します。Bは税込11,000円で仕入れた椅子を、消費者Cに税込22,000円(消費税2,000円)で販売します。

この場合の消費税の負担者は誰でしょう?それは最終消費者であるCであり、消費税を2,000円負担しています。ただし消費税を負担して代金を支払っただけで、国への納税手続まではしていません。ではこの2,000円はどのように国に納められているのでしょう?それは、納税義務者の事業者であるAとBが納税額を各自計算し、申告及び納税手続を行っているのです。

AはBに販売したときに預かった消費税1,000円を当期の納税額として計算し申告及び納税を行います。またBは、Cに販売した時に預かった消費税2,000円から、Aから仕入れるときに支払った消費税1,000円を差し引いた差額1,000円を当期の納税額として計算し申告及び納税を行います(※仕入れる際に支払った消費税を差し引いて納税額を計算するというのがポイントで仕入税額控除と言います、後からもでてきますので覚えておいてください)。

つまり、Cが負担した2,000円の消費税は、AとBがそれぞれ1,000円を納付することで国に納められているのです。

 

ここでもう一点押さえておかなければならないことが、消費税の納税義務の話です。上記ではAとBは当然のように預かった消費税を納税していますが、一定規模以下の事業者であれば消費税の納税義務が免除される、事業者免税点制度というものがあります。詳細は割愛しますが、簡単に言うと2期前の事業年度の売上が1,000万円以下の小規模な事業者は免税事業者としてその期の消費税の納税義務が免除されるというもので、小規模事業者の業務負荷軽減を目的として導入された制度です。

先程の例でいうと、例えばAが年間売上1,000万円に満たない小規模な個人事業者として消費税の免税事業者となっている場合は、預かっていた消費税1,000円は納付する必要がなくなります。消費者Cが負担した消費税2,000円のうち、一部が国に納付されることなくAの手元に残るということです。

このことは、本来国庫に納付されるべき消費税の一部が小規模事業者に取り込まれているということで、益税問題と言いよく取り上げられる論点ではありますが、現状は小規模事業者の業務負荷軽減が優先されている状況にあり、多くの小規模事業者がこの制度の恩恵を受けていると言えます。

そして、この恩恵がなくなってしまうかもしれないというのが今回のテーマであるインボイス制度です。

 

インボイス制度(適格請求書等保存方式)について

2023年10月からインボイス制度が導入される予定です。インボイス(=適格請求書。以下インボイスという)とは、売り手が買い手に対して、商品内容や消費税率・消費税額等を正確に伝える手段のことで、今までの請求書や領収書をイメージしてもらえればわかりやすいと思います。ただし、今まで誰でも交付できていた請求書や領収書とは大きく異なる点があります。それは、インボイスを交付できるのは適格請求書発行事業者に限られるという点です。

適格請求書発行事業者となるためには、税務署への申請を経て登録を受ける必要がありますが、この登録は消費税の納税手続を行っている課税事業者しか行えないことになっているのです。このことがどのように影響してくるでしょうか。

先程納税額の計算方法のところで「仕入税額控除」という言葉がでてきました。Bは納税額の計算の際、Cより預かった消費税2,000円から支払った消費税1,000円を仕入税額控除で差し引いて納税額を1,000円と計算していました。インボイス制度では、仕入税額控除を行うにはAから入手したインボイスを保存することがその要件となります。つまりAが免税事業者であった場合Aはインボイスを交付できないため、Bが納税額を計算する際に仕入税額控除を行うことができず、預かった消費税2,000円が納税額として計算されBの納税額が今までより1,000円増加することになるのです。

国への納付額の観点からみると、今までAに取り込まれていた益税1,000円がBを経由して納付されることとなり、消費者Cが負担した2,000円が漏れなく国庫に納付されることになります。この益税問題の解消もインボイス制度導入趣旨のひとつと考えられます。

納税額が増えてしまったBはこの時何を考えるでしょう。椅子の仕入先を免税事業者である小規模なAから、税込価格が同額の他社でインボイスの交付可能な一定規模の事業者へ変更することを検討するかもしれません。つまりインボイス制度は、免税事業者を取引から排除する誘因をあたえるものとして、小規模事業者には多大な影響を与える可能性のある制度だということです。影響が大きいことから国も経過措置を設けており、インボイス制度導入の2023年10月から6年間は免税事業者からの仕入についても一定割合(当初3年は80%、次の3年は50%)の仕入税額控除を認めることを予定しています。

小規模事業者でも届出を行えば、自ら消費税の納税義務のある課税事業者になることができます、そうすれば適格請求書発行事業者となることができ、インボイスの交付は可能です。これにより取引から排除されることは免れるかもしれませんが、当然消費税の納税義務が発生します。先程の例で言うと、Aは課税事業者となれば益税として取り込めていた1,000円を納税しなければならないということです。

インボイス制度の導入は、以降の経過措置を含めまだ時間的猶予のあることではあります。ですが中小零細の免税事業者の方々は、取引から排除される可能性を許容してでも免税事業者であり続けるか、インボイスを交付できないがために相手先で消費税の納税額が増加する分を値引きし取引を繋ぎとめる、あるいは自ら課税事業者を選択しインボイスを交付するが自身の消費税の納税負担を受け入れるなど、今までのビジネスを見直す大きな分岐点が差し迫っていることは間違いありません。このインボイス制度の導入というのはそれほど大きな影響があるものと思われます。

今回は話を単純化するため原則論で記載していますが、各事業者の置かれている状況によって対応はケースバイケースで、その検討には相当程度の専門知識が必要です。もしこのようなことでお悩みであれば相談対応いたしますので、ぜひご検討下さい。

 

(余談)

なお、登録を受けていない者がインボイスと誤認されるおそれのある書類を交付することは禁止されています。禁止行為を行った場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されますのでご注意下さい。

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