Column税務コラム
インボイス制度が、令和5年10月1日より開始されます。レジや請求書の準備が大変なことでしょう。
しかし、日常している仕訳においても影響が出ます。そのひとつが、売掛金が入金したときする仕訳です。
下記のような仕訳をしたことがありませんか。
預 金 ×××,××× / 売掛金 ×××,×××
支払手数料 (課税仕入10%) ××× / 売掛金 ×××
この仕訳は当たり前のようにされていると思いますが、インボイス制度が導入されると、いささか面倒なことになるようです。
現行においては「3万円未満の課税仕入れ」及び「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる旨が規定されていますが、インボイス制度の開始後はこれらの規定は廃止され、公共交通機関で3万円未満の支払や、自動販売機や自動サービス機での3万円未満の支払などに限って適格請求書を交付することが困難な場合として交付義務が免除されます。
つまり、振込料に関する適格請求書がないと仕入税額控除ができなくなります。
よって、振込料を得意先に負担いただかないといけません。しかし、これはなかなか難しいかもしれません。売手が振込料を負担することが当たり前となっているからです。振込料の買手負担が無理な場合は、振込料の適格請求書を添付した「振込料を立替えました。」という精算書を得意先からいただくことになります。また、最近ではATMなどを利用した場合で、適格請求書が出ない場合、自販機での少額購入を同等として売り手に通知するだけでよいという記事も出ているようです。
法律的には、民法484条は「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めています。
売手・買手の双方に別段の取り決めなどがない限り、特定物の引渡しを除いては、売手の住所にて弁済をしなければならないことになっています。いわゆる「持参債務の原則」を定めています。買掛金や未払金を口座振込により支払う場合にも、持参債務の原則は適用され、債権者の口座に入金されることにより弁済がされたことになります。また、民法485条は「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。」と定めています。振込料も「弁済の費用」に該当することから、買手負担が原則です。売手・買手の双方に振込料を売手負担とする合意があれば別ですが、合意が無ければ法律上は債務を全額弁済したことになりません。以上から、上記の場合は双方に合意があったとされる場合です。
では、民法上では売手・買手双方に合意がないにもかかわらず振込料を差し引いて入金される場合どのように考えるかですが、単純に「振込料分の債権の入金がありませんでした。」として再度不足分を請求するか、督促をあきらめるかということになります。大体の場合は、再請求をあきらめるでしょう。つまり、値引きを行うことになります。よって、仕訳は以下のようになります。
(売手)
預 金 ×××,××× / 売 掛 金 ×××,×××
売上値引(売上対価返還?%)××× / 売 掛 金 ×××
(買手)
買 掛 金 ×××,××× / 預 金 ×××,×××
支払手数料(課税仕入10%) ××× / 仕 入 値 引(課税仕入対価返還?%)×××
ただし、この値引きを実行するためには、入金確認後に適格返還請求書を作成し買手に交付する必要があります。また、適格請求書兼適格返還請求書を交付し、振込料相当分を値引きするとする方法もあります。
しかし、先んじて交付すると10%商品等と8%商品等が混在している場合、何%の値引きをするのかという問題が起こりますので、なかなかに根深い問題です。
なかなかに、商慣習を巻き込んだ面倒な問題ですが、振込料が民法に従い買手負担となるような慣習に戻れば問題がなくなります。インボイス制度の導入までに、この問題に、何らかの簡略化の見解が出ることを期待しましょう。